開設20周年メッセージ

施設長挨拶


開設20周年を迎えて

 当事業所は平成14年2月1日、当時の田方郡8カ町村(大仁町、伊豆長岡町、韮山町、天城湯ヶ島町、修善寺町、中伊豆町、土肥町、戸田村)からの強いご要望とご尽力により、精神保健福祉法に基づく「田方精神障害者社会復帰施設 田方・ゆめワーク」として産声を上げました。通所授産施設と地域生活支援センターを一体化した地域初の複合型施設であり、当法人が管理運営委託を受ける形で、当時としても珍しい公設民営型の施設でもありました。

 ゆめワークの開設は、当時の法人理事長である故杉山邦裕先生が「障害を持ちながら地域で暮らす利用者が、ごく当たり前の生活ができるよう熱意をもって支援していこう」と、施設開設に向けて積極的に推進され、この地域における精神障害者支援の大きな転換期にもなったことと思います。
 その後、法改正がある中で施設名称や体制が変わりました。また平成24年4月には伊豆の国市より移譲され、現在は障害者総合支援法に基づく「サポートセンターゆめワーク(相談支援事業/地域活動支援センター事業)」と「就労支援事業所 田方・ゆめワーク(就労継続支援B型事業)」の2施設3事業を当法人が設置運営主体として事業運営させて頂いております。

 日々の歴史を刻みながら、ゆめワークもここに20周年という節目を迎えることができました。開設当初から施設の運営に対しては利用者の皆様をはじめ、家族会、行政機関、医療機関、ボランティアの方々など多くの皆様にご支援ご協力を頂き、改めて心より感謝申し上げます。
 さて、私自身が精神保健福祉士として新米だった頃、ちょうどゆめワークが開設し、当時勤務していた沼津中央病院から異動となり数年間を過ごしました。当時はまだのんびりした雰囲気で、毎日のように利用者の方々と将棋やオセロ、草野球などに興じていました。また、パソコンで広報誌『ゆめこいひろば』を作って市役所や医療機関に配布したり、季節行事として毎月のようにイベントを企画し、お花見、海水浴、バーベキュー大会、運動会、クリスマス会、箱根バス旅行など一緒に開催し盛り上がりました。地域のイベントやお祭りには利用者の方々と一緒に参加し、手作りのパンを販売させて頂きました。本当に楽しい思い出ばかりで、精神保健福祉士として多くのことを学ぶことができました。むしろ、私の方が利用者の皆様から癒され、励まされ、そして育てて頂いたのだと感謝しかありません。その後、再び病院や他施設勤務を経て数年前に再びゆめワークに赴任し、この20周年という節目に立ち会うことができたのも何か運命的なものを感じ、とても感慨深いです。

 昨今、法改正に伴い、この圏域にも就労支援事業所やグループホームなど様々な種類の障害福祉サービス事業所が急激に増えました。当事者の方々にとっては選択肢が増え、少しずつ生活しやすい環境が整備されてきたように感じます。

 一方で、「21世紀は心の時代」と言われ久しいですが、ここ十数年の我が国の動向を振り返ってみますと、あらゆる場面で急速に格差が広がり、多くの人々が生きづらさを感じる時代となっているように思います。更にこの数年はコロナ禍によって否応なく厳しい現実を突きつけられることとなり、失業や若年無業者の増加、貧困の連鎖、虐待、DV、ギャンブルや違法薬物などの依存症、ヤングケアラー、引きこもり、8050問題など挙げればキリがない程、様々な社会的なひずみが浮き彫りとなりました。

 毎年、国連機関から発表される世界幸福度レポートにおいても、我が国は大人も子供も実感している幸福度が先進諸国の中では最下位に近い順位で推移しています。日本経済の「失われた30年」が大きな代償を残していることは言うまでもありません。加えて急激に進む少子高齢化やIT・ネット社会、新自由主義がもたらした誤った自己責任論を背景に、どこか漠然とした不安感や閉塞感が漂っているように感じます。その中で人々は過剰なストレスや悩みを抱え、いつしか他者への関心や寛容さを失う悪循環に陥っているのではないでしょうか。また、我が国が世界屈指の長寿大国であると同時に、残念ながら若者世代の自殺率が高い自殺大国であるという事実からも、いかに多くの人々が孤独感や生きづらさを抱えているのかが分かります。その背景には心の病も影響していると言われています。人々の幸福度の高さが国の豊かさであるならば、それを測るには人々の心の豊かさ、心の健康こそが重要な指標であることを、これらの統計は示しているのです。

 こうした社会情勢の変化に応じて、来年度から高校の授業でようやく精神疾患について教えることになるようです。まだまだ課題は多いと感じますが、若い世代が精神疾患やメンタルヘルスについて正しい知識を学べるようになることは一歩前進ではないでしょうか。今後、誰もが心の問題に関心を持ち、共に深く理解し合い、認め合い、支え合えるような寛容で優しい社会になることを切に願うとともに、私自身も地域自立支援協議会の活動等を通じ、精神保健福祉に関する普及啓発に努めていきたいと思います。

 そのようなどこか暗い時代にあって、昨年開催された「TOKYO2020パラリンピック」では、障害を持ったアスリートの方々が活躍され、多くの感動を与えてくれたことは記憶に新しいです。彼らの活躍は個人の可能性や多様性を認め、社会の中にある様々な社会的障壁であるバリアを減らしていくことの大切さを改めて私たちに気づかせてくれたように思います。

 もちろん、ゆめワークがパラリンピックムーブメントのような大きな社会変革はできませんし、国民全体の幸福度を上げるようなこともできません。しかし、私たちはこの地域の精神保健福祉に責任を持ち、ゆめワークを慕い、頼ってくださる方々と日々一緒に寄り添いながら、少しでも皆様がホっと安心して未来に希望を持って頂けるようなかかわりを続けていきたいと思います。その一つ一つの小さなかかわりの積み重ねが多くのつながりと絆を生み、やがて誰もが暮らしやすい地域づくりへと発展していけば嬉しい限りです。

 ゆめワークは、当時の「伊豆清流会」様など家族会を中心とする多くの先人たちのご尽力により開設したこの地域の社会資源であり、貴重な財産です。私たち職員はそこで働かせて頂いていることに対する感謝の気持ちと地域に対する責任を忘れずに、今後も職員一丸となって一生懸命に頑張って参ります。

 今日からまた新たな一歩を踏み出すゆめワークを、どうぞ今後もご支援ご協力頂きますよう何卒よろしくお願い申し上げます。


サポートセンターゆめワーク
就労支援事業所 田方・ゆめワーク
施設長 青木 大輔